会社員の資産形成において、非常に有利な制度のひとつに企業型確定拠出年金(企業型DC)があります。
勤務先の制度として加入している方も多いと思います。
また、会社が拠出する掛金に加えて、自分のお金を上乗せするマッチング拠出を利用している方もいるでしょう。
現役時代の節税メリットは非常に大きい制度です。
ただ、企業型DCについて考えるときに、ぜひ知っておきたいのが**「出口」、つまり受け取るときの税金**です。
企業型DCのメリットと「確実な積立」
まず、企業型DCの主なメリットを確認しておきましょう。
■60歳まで引き出せない強制力
企業型DCは、原則として60歳まで自由に引き出すことができません。
これは一見するとデメリットのように思えます。
しかし、老後資金を作るという意味では、むしろ大きなメリットです。
現役時代は、住宅、教育、車、旅行など、いろいろなお金が必要になります。
「老後のために投資しておこう」と思っていても、手元にあるお金は何かのきっかけで使ってしまうことがあります。
その点、企業型DCに入れたお金は、基本的に老後まで取り出せません。
強制的に老後資金を積み立てられる。
これは長期の資産形成において、かなり強力な仕組みだと思います。
■マッチング拠出による高い節税効果
会社が拠出する掛金に加えて、自分自身でも掛金を上乗せする「マッチング拠出」。
この本人拠出分は所得控除の対象となります。
そのため、毎年の所得税や住民税を軽減する効果があります。
老後のために積み立てながら、現役時代の税金も減らせる。
企業型DCの入口のメリットは、非常に大きいと言えます。
■60歳で受け取るときの「出口」に注意
ここからが、企業型DCで知っておきたいポイントです。
企業型DCを60歳以降に一時金として受け取る場合、基本的には退職所得として扱われます。
退職所得には「退職所得控除」という大きな税制上の優遇があります。
例えば、勤続年数が38年の場合、退職所得控除は、
800万円+70万円×(38年-20年)=2,060万円
となります。
つまり、
- 20年までの分:800万円
- 20年を超えた18年分:1,260万円
- 合計:2,060万円
です。
かなり大きな金額です。
このため、長く会社に勤めた人にとっては、退職金を受け取る際に大きな税制上のメリットがあります。
ここで問題になるのが「会社の退職一時金」
では、会社から退職一時金をもらい、さらに企業型DCも一時金で受け取る場合はどうでしょうか。
ここで注意したいのが、
会社の退職金と企業型DCを、完全に別々の退職所得控除として考えられるとは限らない
ということです。
受け取る時期によっては、退職所得控除の重複調整が行われます。
つまり、
「会社の退職金には退職所得控除」
「企業型DCにも同じように退職所得控除」
と単純に考えてしまうのは危険です。
■ポイントは「20年ルール」
会社の退職一時金と企業型DCを、どちらも一時金として受け取る場合、受け取る順番と時期が重要になります。
特に、会社の退職一時金を先に受け取り、その後に企業型DCを一時金で受け取るケースでは注意が必要です。
2026年以降のルールでは、企業型DCの一時金を受け取る際、前年以前19年内に受け取った退職手当等がある場合、重複する勤続期間について退職所得控除の調整が行われます。
これを一般的に「20年ルール」と呼んでいます。
ざっくり言えば、
一度使った退職所得控除を、短期間で再び丸々使うことはできない
ということです。
例えば、60歳で会社の退職一時金を受け取ったとします。
そのときに退職所得控除を使っています。
その後、企業型DCを一時金で受け取ろうとすると、60歳から19年以内は、過去の退職一時金との重複調整がかかり、退職所得控除の再利用できません。
ここが大きなポイントです。
企業型DCは75歳までに受給を開始する必要があります。
つまり、
60歳で会社の退職一時金を受け取り、退職所得控除を使ったあと、企業型DCを一時金で受け取る場合、控除を完全にリセットして再利用するために必要な期間を待つことは、実質的に難しい
ということになります。
もちろん、実際の税額計算は勤続期間や受け取り時期、会社の退職金制度などによって変わります。
ただ、
「会社の退職金と企業型DCは、それぞれ別々に退職所得控除を使える」
と考えておくのは危険です。
特に、会社の退職金が大きい人ほど、退職所得控除の金額を退職一時金で使い切ってしまう可能性があるので、企業型DCの出口については早めに考えておいた方がいいでしょう。
知っておくべきこと
企業型DCを利用している会社員なら、少なくとも次の3つは確認しておきたいところです。
- 自分の退職一時金はいくらくらいになるのか
- 自分の退職所得控除はいくらなのか
- 企業型DCは60歳時点でいくらくらいになりそうなのか
この3つを把握しておくだけでも、出口について考えやすくなります。
例えば、
「会社の退職金が2,000万円」
「退職所得控除が2,060万円」
「60歳時点の企業型DCが1,500万円」
だったとしたら、
「このDCを最終的にどう受け取るのがいいのだろう?」
と考えておく必要があります。
「控除を超えても1/2課税だから大丈夫」ではない
ここで、
「退職所得控除を超えたとしても、退職所得は1/2になるのだから、それほど問題ではないのでは?」
と思うかもしれません。
確かに、退職所得には、
退職所得控除+原則1/2課税
という非常に大きな税制上のメリットがあります。
しかし、株式や投資信託のように「利益が出た部分だけ」が課税対象になるわけではありません。
企業型DCを一時金で受け取る場合は、受取額をもとに退職所得を計算することになります。
そのため、企業型DCの残高が大きくなればなるほど、出口の税金についても考えておく必要があります。
企業型DCは「やらない方がいい」という話ではない
もちろん、これは企業型DCが不利な制度だという話ではありません。
むしろ、会社員の資産形成において、企業型DCは非常に優秀な制度です。
現役時代の所得控除。
運用中の税制メリット。
そして受け取り時の退職所得控除や1/2課税。
これだけの優遇がある制度は、なかなかありません。
だからこそ、
「節税になるから、とりあえず企業型DCをやっておけばいい」
で終わらせるのではなく、
「最後にどう受け取るのか」
まで考えておきたいのです。
企業型DCを利用しているなら、まずは、
①会社の退職一時金
②自分の退職所得控除
③60歳時点の企業型DCの予想残高
この3つを確認してみる。
企業型DCは、入口の節税だけでなく、会社の退職一時金を含めた出口の税金まで含めて考えることが大切です。
※この記事には個人的な見解が含まれています。企業型DCの制度や税制上の取り扱いは、勤務先の制度や個人の状況によって異なります。投資には元本割れのリスクがあり、特定の投資成果を保証するものではありません。投資は自己責任でお願いします。

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